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La Lune Lunatique

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福祉と政治 あるいは、世界のどこにもユートピアはない

スクーリング一日目終了。

なんというかなー、な気分です。

広い意味で言えば、世の中に政治的でないことなど存在しない、んでしょうけれど、今日の講義は疲れた・・・。
福祉というのは、つらつら考えるに、政治的にいわゆる左翼と言われる立場にある人が熱心に取り組んでいることが多いのかもしれませんが、そして、私は、単純に右か左に分類するなら、明らかに左にいる人間だと自分のことを考えているのですが、それにしても、今日の講師にはちと辟易。
二言目には「日本は遅れている」「厚生労働省が悪い(「悪い」って言葉は使ってなかったかもだけど、結局そういうこと)」だもんなぁ。ふー。

おまけに、今日になって、スクーリング最終日の「児童福祉論」の講師が「事前に自分の著書を読んでおくこと」って書いてることにやっと気づき、昼休みの書籍販売でその本を買い(大学の先生って、大体、こーやって自分の本を買わせますよね、なんか懐かしい)午後の講義中にざっと読み終え(←おい)さらに辟易。

日本は児童福祉につぎ込む予算が少なすぎるとか、まぁそれは分かりますよ。しかしさ、なんで、少子化を論じるのに「戦争をする国、しない国」って言葉が頻発するの。
小泉改革等に象徴される「新自由主義」に強い危機感を覚えて書かれた本だ、というのは分かります。その懸念自体に共感する部分は私も無きにしも非ずです。
そんでもって、新自由主義を敵視する場合、仮想敵国がアメリカであるということはこれまた自明です。対比して、いわゆる北欧型福祉というか、欧州国家が持ち上げられるのも、これまた理の当然でしょう。

しかしさ。一体全体、欧州のどこに「戦争をしない国」があるのさ。スウェーデンにだって軍隊はあるぞ。少子化対策で最近お手本に上がったりするフランスなんか、軍需産業があの国の主要産業の一つなのは間違いないし、ちょうど私の渡仏当時は、コソボ空爆が始まったところだった。ほぼ同じ頃、フランスは徴兵制を止めたが、若年層の失業率がめちゃくちゃ高いあの国では、恐らく、志願制でも十分、入隊希望者が集まると思う。私の母方の祖父は、農家の5男で食えなくて職業軍人になった口なのだが、まぁ、世界中どこでもそんなのおんなじでしょう。
戦争の是非とかそういうことと、なんで少子化問題をリンクさせて語らなきゃならんのか皆目分からん。

まぁ、少子化といえばジェンダー問題が絡められるのは当然だけど、そして私自身は、ジェンダーメインストリーミング(ジェンダー主流化)というのを大切なことだと考える人間だけれど、あの、「女性の就業率が高いほど出生率が高い」図(グラフとは言わんな)、あれはどう見ても胡散臭く見える。中央に引いてある斜め右肩上がりの線を消してなお、あの図をそう読めるのかどうか。問題の本でもこの図が引用されていたが、笑っちゃうのはそのちょっと前に「統計のマジックに気をつけろ」みたいなことが書いてあったことだ。

この手の「日本は遅れている」言説を私が嫌いな理由はいくつかあるが、まず、対比されて語られるような「進んだ」国にも、恐らく何かしらの問題はあって(私はフランスの福祉状況を全然知らないのだが、公共料金の口座引き落とし額がたびたび間違っているような国で理想的な福祉だけが行われているとは信じがたい)ユートピアなんてどこにもないのが当たり前でしょ、ということと、そもそも世界全体を見渡せば日本は圧倒的に恵まれた国で、そこを踏まえずやたらと「先進諸国に遅れている」ばかりを述べ立てるというのはどうよ、という思いと、それから、その「日本」を作ってるのは、他でもないあんたでしょ、と言いたい気持ちがあるからだ。

自分は反対してるんだけど、政府が、官僚が悪いんだ、っつったって、政府を選んでるのは国民だし。そーなると次に、「国民が駄目」みたいな話が出てきて、このロジックの何がイヤって、結局「日本は駄目な国」と語るときの人間は「自分は、そんな駄目な政府を選んでいる人間よりモノが分かっている」という高みに立って物言ってるだろ、ってことだ。人を見下してる匂いが言外にぷんぷんして耐えられない。

あー、あと、今日は一日「遅れてる遅れてる」ばかりを聞いたけど、私が福祉の世界を見知った十数年前(当然、介護保険制度も始まっていない。介護保険制度ってものを作る、ってことは固まってきていたのだが)と比べりゃ、今の方が確実に増えてる資源があると思いますよ。現場の実感として、全然使えないものばっかりだったらゴメンナサイだけど(今は現場のこと、あまり知らないんで。)サービス量だって増えてるでしょ、確実に。

政治的な立ち位置がどうであれ、今、この国にどんな福祉が必要で、何が足りないのか、を、政治信条とは別に、みんなが語り合えなきゃ、状況は良くなっていかないような気がするけどね。
福祉って誰にだって関係することの筈なんだから。こんな講義ばっかり聞かされて「なんかちょっと…」って福祉の世界に距離を置く人が出てきたら、その方がもったいないと思う。

ああ、最終日の講義が今からちょっと憂鬱…。

そうそう、アマゾンから「メディア・バイアス」By松永和紀という本が届き、読み始めました。
この方の本は前にも読んだのですが、今回も、例えば「食品の裏側」という本(前にこのブログで感想書いたな…)にある明らかな間違いとか、色々勉強になりました。
以前に本を読んだことのある、高橋久仁子さんのフードファディズムについての話や、中西準子さんの環境リスク学も取り上げられたりしてるので、全く初めて知ることではない話も多々あるのですが、よくまとまっているし、単純に「アレが体に悪い」「コレがいい」と騒いだりする人間にならないためにお勧めの本です。でも、一番勧めたいタイプの人は、こういう本、読んでくれないような気もするけどね…。
「メディア・バイアス」もまだ半分ぐらいしか読んでないんだけど、ともかく、色んな話を鵜呑みにしない態度って、やっぱり大事ですね。もちろん、この本の受容についてもおんなじことが言えるんだけど。
「◎◎は危険!」的なセンセーショナルな本は売れて、冷静なアプローチなんてのは、なかなかマスコミなんかで取り上げてもらいにくいものだと思うけれど、インターネットというものもあるし、ある言説に対する反論を探すのはネット登場以前より容易くなっているでしょう。

そーいや、中学生か高校生の頃、中津りょう子さんが、幼児への早期英語教育に反対、と書いていらっしゃるのを読んで、世間では、早期に教えるほどいい、みたいな話が多そうだけど、コレは一つ、両者の意見を読まないと、と、早期英語教育推進の本を探して買ったことをふいに思い出しました。その時と今とでは、もちろん、得てきた知識量の違いはありますが、結果として私は、基本的には、早期英語教育には反対です。そしてもちろん、この世の全ての問題と同じように「黒か白かのどっちかしかない」「こっちだけが正しい」ってことはないと思ってます。

…時間がかかることだけど、結局、そーやって一つ一つ、自分の中で消化していくしか、ないんだよなぁ。うん。
by mmemiya | 2007-09-22 01:39 | 日々雑感