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La Lune Lunatique

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伝統ってなんだ?

「食物繊維のとりすぎは、返って便秘になる」とかいうニュースを、昨日だったかネット上で見たのだけれど、今探したところ、ソースが見つけられない。
なんか、食物繊維は大腸がん予防に効くの効かないの、「エビデンスに基づいた」と言ったところで、そのエビデンスもいつひっくり返るか分かったもんじゃない、と思うにつけ、やっぱり現代の栄養学で言われていることを100%鵜呑みにはできないな、と思う。

となったところで、よく聞くのが「伝統的な日本食が一番」とか「その土地で取れるものを食べるのがいい」といった話。後者などは最近流行の「食育」なんかにも(主に農政分野から)結びつけられているようだ。
ちょっと聞くと、なるほど、確かにそうかも、という気分になるこうした言葉だけれど、さて、ところでその「伝統的な日本食」ってなんなのだろう。
その土地にそもそも育っていたもの、なんて言い始めると、あれ、稲って渡来人が持ち込んだんだっけかとか意地の悪いことを言わずとも、トマトなんてカタカナで呼ばれている野菜はもとより、カボチャにせよじゃがいもにせよ、広まったのは江戸時代。平安時代なんて貴族なんて一握りの特権階級すら碌なものを食べていない。「おせち料理に疲れた胃を七草粥で休める?冗談じゃない、七草粥は私たちにとって贅沢なご馳走だったのよ!!」と、桃尻語訳枕草子で清少納言も叫んでる。
海外に目を移せば、トマトのないイタリア料理や、じゃがいものないドイツ料理なんてもはや考えられないだろうけど、それぞれの国でトマトやじゃがいもが食用になったのは、やっぱり17世紀、日本で言ったら江戸時代なわけだ。国家の存続さえ危うくなったアイルランドのじゃがいも飢饉の話を読んで最初に思ったのは「じゃあ、じゃがいもが入ってくる前、何食べてたんだ、アイルランド人は」ということだった。そんな国で、今更、南米原産の植物抜きの料理が伝統料理と叫んでも、誰も見向きもしないだろう。

時代は江戸だか明治だかにすると言ったって、次はじゃあ、どの階層の食べていたものか、という話だってある。江戸時代には、江戸や上方でなら、庶民の食生活もそれなりにバラエティに富み始めていたのかもしれないが、きっと農村部の農民の食べていたものは、相当異なっていただろう。
明治以降にしてみたところで、経済的に恵まれた層と、そうでない人々とではかなりの乖離があっただろう。今、日本の「おふくろの味」と言われているような料理は、明治大正以降、地方から都市部へ出てきた若い妻たちへ向けて、新聞、ラジオ、テレビといったメディアが広めてきたブルジョア料理に過ぎないという側面もあるのではないか。

そもそも収穫の季節が違うものを、温室や何やで育てることは不自然では、と思うけれども、「何を食べたらいいのか」などと悩むことのできる贅沢な時代に生まれ育った私たち、さてはて、いったい何を食べればいいのやら。理屈なんて抜きで、食事はおいしく食べたいものだけれど。
by mmemiya | 2006-02-22 21:17 | 日々雑感