La Lune Lunatique

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金の仔牛 佐藤亜紀

バタバタしてたら、大蟻食さまの新刊が出てるの、ちっとも知らなかったよ。
「メッテルニヒ氏の仕事」が雑誌に連載中で、そのうち本になるだろうことは知ってたけど、「金の仔牛」はまったく知らなかった。

これがなんと、18世紀フランスを舞台にした、バブル経済小説!びっくり、と思ったけど、さすが大蟻食様、読みだしたらホント、やめられないとまらない、なのですわ。
題材となったのはヨーロッパ三大バブルのひとつと呼ばれた「ミシシッピ計画」だそうで、全然知らないものだったのですが、予備知識なしで十分楽しめ、ついでに言うと、18世紀フランスなど知るわけがない私が、いやー、きっとこうだったんだろうなー、と、その雰囲気に浸ることができるのは、佐藤亜紀ならでは、でございます。
(なお、ミシシッピ計画はあくまでも背景なので、それ自体についての解説は本書にはなく、これを主導したジョン・ローという名も出てこないのですが、Wikipediaにも出ているぐらい有名な出来事・人らしい。)

そういえば、かなり前の作品だが「1809」(ナポレオンのウィーン侵攻が背景にあるが、ナポレオンはちらっと遠目で出てくるだけ)に関して、「当時の無名の個人が書いた回想録などをフランスの国立図書館で読みあさった」とご本人から聞いたという方がいらっしゃいました。細部のリアリティがそういう資料で裏づけされてるので(モノの値段とか、人々の服装とか、色んなところがね)読んでて安心感があるのでしょうね。

まぁホント、自分が時代小説なんてものをちょっとでも書こうとしてみりゃ分かりますが、登場人物が一箇所にじーっとしてるならともかく、ちょっとでも動くなら、横に当時の地図でも置いてなきゃ何も書けないし、食事でもさせようとすりゃ、何時頃にどんなものを食べるのが普通だったか調べにゃならん。(1日何食とるのかも、時代によって、階層によって違いますわな。)登場人物をちょっと描写しようと思えば、当時の服装を知らなきゃならん。現代ものやらファンタジーものやらと、そのへんはだいぶ違いますわな。
なお、佐藤作品は、説明ってものをほとんどしないので、例えば、「フェリポーの帳簿を預かってた」と書かれるだけで、こっちは「フェリポーって誰」なんですが、別に、わからなくても読めることは読めます。なんかすごい人なんだろう、とは分かるので。「オピタルの帳簿が見たい」と出てくるオピタルは、深く考えず、あ、きっとあそこ、と、オテル・デューに変換してた(で、多分、あってる)。なんでだろう、と読み返すと、「シャトレの前を抜け、川を渡ってオピタルの脇まで行く」って文章があった。

私は数字に疎いので、作中に数字が頻出しはじめると、そこはもうすっ飛ばして読んでる感じなのですが、実際にはバブル経済の話なんで、どんどんどんどん膨らんでいく数字のマジックこそが読みどころなのでしょう。そして単なる株の売り買いだけじゃなく、新たに出現した「紙幣」というものの胡散臭さ、そして株やら紙幣やらを元に、とんでもなくややこしい賭けを行う主人公たち。一筋縄ではいかない人間が何人も何人も出てきて、手を取り裏切り人間関係が錯綜し、でも、巻頭の登場人物紹介ページはホント余計だよ!と思うぐらい、人物はしっかり書き分けられてて生き生きとしてる(あ、ただ、アルザス出身の三つ子だけが誰が誰だか分からない・笑)。最後まで主人公がどうなるのか、手に汗握ってハラハラ。舞台は豪華でとにかく楽しいなんてもんじゃない。
オペラを見に行く場面もあるが、「金の仔牛の歌」という歌が出てくるグノーのオペラ「ファウスト」(私は見たことはないんですが)は、この小説の始めから終わりまで、通奏低音のように鳴り響いているのかもしれない。(注:当然ながら、作中で見に行くオペラはファウストじゃないです。)おお、なんというか、この小説自体も、どことなく戯曲風でもありますな。

いやー、本当に、読み始めたら一気でした。もう一度、数字を飛ばさず真面目に読み直せば、きっと、経済の勉強にもなるに違いない。
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by mmemiya | 2012-10-21 20:38 | 読んだ本