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La Lune Lunatique

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野蛮な読書 平松洋子  巴里ひとりある記 高峰秀子

私は食い意地がはっているせいか、本も食べ物まわりの本が好きで、そんなこんなで自然と、平松さんのお名前を目にすることがあった。一番最近だと、沢村貞子の「わたしの献立日記」の解説かな。

その平松さんが、こんな読書家だったとは、初めて知った。
本好きの書いた本を読んでいると、どんどん読みたい本が増えてきて困るんだけど、これもまさにその典型で、出てくる本出てくる本、メモって注文したくなる。
そして、こういう読み巧者の本を読んでると、自分がいかにくだらない本に時間と金を費やしてきたか、それから、自分がいかに、素晴らしい本から大して何も読み取れていないか、を思い知らされて、どっぷり自己嫌悪につかったりする。でも、このエッセイはとにかく引き込まれます。獅子文六読みたくなったし、宇能鴻一郎の食べ物エッセイってどんなだろう、と思うし、あー、読みたい本がたくさん。絶版本が多そうだけど。

そして、平松さんの本を買う少し前に、食べ物まわりの本の一冊として出会った「台所のオーケストラ」高峰秀子。
これも名高いエッセイで、前々から名前は知ってたんだけど、買ったのは割と最近。
そして、それを読んでいると、しばしば、パリ滞在時の話が出てくるのだけれど、そのパリでの出来事を綴った、高峰さんの最初の本が「巴里ひとりある記」。

私はもともと映画には疎いし、私の物心ついた頃には引退していた高峰秀子が、昭和26年の日本で、どれほどの大スターだったか、というのは、実感としてはとても想像ができない。ただ、子役から始まってスターの道をひたすら歩んできた27歳の彼女が、家を売り払って遠い異国へ行き、ただの人として過ごせる場を得たことで、いかに楽に呼吸ができるようになったのか、を思うと、胸に迫るものがある。それは確かに、フランスではなくても、日本から離れられたのならどこでも良かったのだろうし、徳川夢声との対談で「半年ぐらい行ってなんか得られるんなら、みんないくわよ。(笑)」とご本人が述べているとおり、その半年で、これを得た!と明言できるものはなかったのかもしれない。それでも、たとえば私も2年のパリ滞在で何を得た、と言われりゃ何も答えられないけれど、それでも、その2年がなければ私は今とは違っていただろうな、と思うのと同じように、半年のパリ滞在は、確かにその後の高峰秀子を変えたのだろう。

なにしろ、着くまでが遠い。次々といろんな都市に寄港して、飛行機を乗り換えて、やっとのことでブラッセルから「ブールジェ」に着くのだ。ル・ブルジェ!エアショーを見に行ったことがあるので、あそこがかつて空港だった(今でもプライベート機は発着するらしい)ということは知識としては知っていたものの、オルリーじゃないのか、と驚く。調べたら、この時代、オルリーももう開港してたようだけど。
在外事務所ってなんだろう、と考えて、そうか、サンフランシスコ条約前だから、大使館なんておけないのか、と気がついたり。「日本の在外事務所が昔の大使館に移ったレセプション」で「セット・アヴェニュウ・フォッシュ」へ向かう、などという話も出てくる。そっかー、そんな昔から大使館の場所はあそこなんだー、みたいな。(一瞬、サントノレ通りの大使公邸と頭がごっちゃになったのですが、あっちはいつからあそこにあるんでしょうな。)
そんでもって、パリの街にはオートバイが溢れていたそうな。そんなパリ、もちろん、私は知らない。知らないんだけど、前に、石井好子さんの「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」読んだときも思ったんだけどそれでもなお、ここに出てくるパリも、チラチラと、私の知ってるパリと地続きだよなぁ、という感じがしてくる。通貨の単位だってフランなんだけど(私はユーロは全然わからないのです)、1960年のデノミ前なんで、金額は???ではあります。私の朝食は150フラン、と言われて、で、高級レストラン行くと2,000フランとか、うーん、私の感じる通貨価値の10倍換算ぐらい・・・とも違うのか。5倍ぐらい?1960年に行われたのは100分の1のデノミで、1968年にもう一度切り下げが行われた、と、Wikipediaには書いてあったけど、当然、インフレとかもあるので、値段のところだけは今ひとつ伝わりません。かといって、当時の日本円に直されても、これまた分かんないことは一緒なんだけど。

と、話はすっかり横道にそれてしまったのだけれど、場所はパリではなくても、スタア・高峰秀子ではなく、ただの一人の日本人として扱ってもらえる場所なら、どこでも彼女は息をつけたのだろうけど、でも、彼女にとって、パリはやはり、特別な場所になったのに違いない。パリのここが嫌だった、なんて話も、多分、色々出来たんじゃないかとは思うけれど、それでも、ヘミングウェイが一生ついて回る、と言ったように、やはり、パリには何か、うまく言葉にできないけれど、それだけの力があるような気がしている。

他にも何冊か、読みかけの本を抱えてるんだけど、今、ほかに読みたいのは、沢村貞子の「老いの道連れ」です。どうも絶版らしいのですが、つい、注文してしまった・・・。
by mmemiya | 2013-01-22 22:16 | 読んだ本