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La Lune Lunatique

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現金の要らない社会

ふと気がつくと、財布の中身が心もとない。
日頃、保育所送迎時間に拘束されているので(そして子ども二人を連れていると、小回りがききにくいので)生活に必要なお金を下ろすのは、もっぱら週末。銀行のポイントを貯めて、いつも、「時間外手数料1年間無料」に引き換えているので、手数料は気に病まなくてもいいのだけれど、病児保育に行ったり、自分が医者にかかったりすると、思わぬスピードで現金が消えていて、ありゃ、なんてことがたびたびある。

フランスに行って、「日本と違うものが定着してるなぁ」と感じたことが2点ある。一つは、今はインターネットに取って代わられたかもしれないが、<ミニテル>と呼ばれるキャプテンシステムの普及。日本では、所謂「ニューメディア」時代に鳴り物入りで喧伝され、そして消え去ったシステムだが、フランスは、確か世界で唯一、このシステムが普及した国だった。

そしてもう一つが<デビットカード>。これに関しては個人小切手の存在も忘れてはならないのだろうが、ともかく、フランスは現金をあまり使わない社会だった。それは恐らく今も変わっていないだろう。
当時、もっとも高額な紙幣は500フラン札だったが、私はこの500フラン札を拝んだ記憶がほとんどない。当時の為替レートで言えば1万円程度なのだが、こんな高額紙幣、偽造の心配もあり、普通の店では受け取りを拒否されていたのではないか。どうかすると、その次の200フラン札でさえ、「おつりがない」などと嫌がられる存在だった。
スーパーでの買い物は、デビットカードか小切手で払う。スーパーの場合、小切手の金額欄も印字してくれるのだが、どうも私は小切手は苦手で、大家への家賃支払いとか、限られた場面でしか使ったことがない。デビットカードは、カードを渡して4桁の暗証番号(銀行が指定してくるので自分では決められない)を入力するだけ。即日では決済されないものの、これは「クレジット」ではない。だから、自分の口座残高を超えて使いすぎると、銀行口座が凍結されてしまうこともありえる。

その頃のフランスでは、どこの銀行(+郵便局)も、発行するカードを共通のICカードにしており、その名は「カルト・ブルー」つまり、「青いカード」という、文字通り青色のカードだった。真ん中の金融機関名の部分だけが銀行ごとに違うだけで、あとは統一のデザイン。これに、VISAとかをつけて、国内外でクレジットカードとして使うことも可能。口座残高にさえ気をつけていれば(あと、銀行が間違った金額を引き落としていないか、もだが)小銭を探したり、大金を持ち歩く必要もない。(なお、銀行が引き落とし金額を間違えるという事態はしばしば発生する。)

デビットなので、当然、銀行のキャッシュカードも兼ねていて、街角の現金自動引き出し機(日本と違って「預ける」方は不可)でお金も引き出せるわけだが、自分の口座にいくら残高があっても、1週間の間に機械から引き出せるお金の額は、日本と比べれば非常に低く設定されていた。(正確には分からないが、1日あたり数万円の世界だったような。)
高額の現金が、もしどうしても必要になった場合は(闇で部屋を貸している大家に家賃を払うとか??)自分で自分宛の小切手を切って銀行窓口に持って行って現金化するのである。

ICカードなんてものが普及する前は、小切手で決済、が普通だったので、特に年配の人は、スーパーなどでも小切手を使う人が多かったように思う。当時、大体、小切手は50フラン(1,000円)、カードは100フラン(2,000円)ぐらいから使えた。だから、現金を使うケースと言うのは、それ以下の金額の買い物だけ、という人が多かっただろう。

更に、勤め人の場合、多くの人が、昼食代として会社から「チケ・レストラン」という食券を支給されている。レストラン(高級店を除く)やカフェの入り口で気をつけて見てみると、大抵、複数の「チケ・レストラン」会社のマークが貼ってあるはずだ。自分の持っているチケレストランを使える店に行けば、限度額以内の食事なら、もちろん現金なしで食べられるし、ちょっと高いものは、差額分だけ小銭を出せばいい。

スリが観光客を狙う、という。あれは、物慣れない人間を狙う、という側面も確かにあるだろうが、「まとまった現金を持ち歩いているのなぞ、観光客だけ」という事実があるからなのだ。

私はチケ・レストランを持っていなかったので、毎日、昼食代に現金を必要としたが、それでも、日頃、財布の中には大して現金は入っていなかった。
現金輸送業者の2週間に渡るストライキで、街中から現金が消え、非常に苦労させられたが、大手商店などはこの期間だけ5フラン(100円)からデビットカードを受け付けたりして急場をしのいだ。

ちょうどその頃、まさに日本では、デビットカードが導入されようとしていた。うまくすれば、私が帰る頃には、ちょっと現金依存度が低い社会になっているかしら?と期待していたのだが、結果的に、デビットカードはほとんど日本に根づかなかったようだ。まぁ、確かに、これを使うメリットは、そんなに感じられないわけだし…。
技術立国?携帯大国?日本では、携帯電話等を使った電子マネーの普及の方が、ありうる道なのかもしれない。そんなわけで、私にとっては、当分、財布の中身に気を配る日々は続く…。
by mmemiya | 2006-06-24 01:53 | フランス関連