La Lune Lunatique

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巴里の空の下オムレツのにおいは流れる 石井好子

欧州暮らしのエッセイ、などという分野があるとして、もう、その中の古典中の古典と思われる、有名な本なのだけれど、実は、読んだのは遅まきながらこれが初めて。

はぁ~、思った以上に、エッセイというより、料理の作り方が大きな部分を占めてるのね、と、読み始めて驚き。
こりゃ、この本から派生したレシピ本なんてのが生まれる道理だ。

昭和38年の初版になっている。「ふらんすはあまりに遠し」ではないが、今のように女性誌に仏蘭西情報が溢れかえり、日本人観光客がブランド店に列を成すなどとは考えられもしなかった時代。雰囲気としては、伊丹十三の「ヨーロッパ退屈日記」に似ている感じもある。伊丹氏の欧州滞在が昭和36年とあった。恐らく、石井氏の巴里滞在は、それよりもう少し前ということになるだろう。でも、ヴェルミセル(極細のパスタ)を素麺として食べる、なんて話がどちらにも出ていたりする。

しかし、舞台は日本人で溢れかえっていない、「京子」(日本食材店)も「ジュンク」(日本書店)もないパリではあるけれど、石井氏が食事するカフェは今でもあったりするし、たとえアペリティフにウィスキーソーダやトマトジュースを飲むのは今となっては流行遅れの感はあっても、ここに出てくるパリの風景は、私にもまた既視感を覚えさせるものだったりするのが、パリという都市の底力のような気がする。これが仮に東京であれば、昭和30年代の東京を描いたエッセイを、今の東京に住む外国人が親しみを持って読む、ということが出来るとは、ちょっと想像しがたい。

出てくる料理は、今となっては多くの日本人にとって、各種のフランス料理書やエッセイ等でおなじみのものだろうが、当時の読者にはさぞやインパクトがあったのでは、と思う。もちろんあわてて付け加えるが、紹介される料理が今の我々になじみがあるからと言って、このエッセイの価値をなんら減じるものではない。なにしろ、読んでいるとどんどん作ってみたくなり、食べてみたくなるのだから。

しかし個人的に一番衝撃だったのは、実は、「大阪にはしゃぶしゃぶという食べ物がある」云々というくだりであった。昭和30年代半ばって、しゃぶしゃぶはまだ、注釈が必要なローカルな食べ物だったのか…。
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by mmemiya | 2007-07-04 00:14 | 読んだ本